祝ノーベル文学賞! カズオ・イシグロの世界を見事に映画化した「日の名残り」

見事今年のノーベル文学賞に輝いた日系イギリス人作家のカズオ・イシグロさん。昔読んだ彼の代表作の一つ、「日の名残り」をもう一度取り寄せて読もうと思ったら、売り切れでしばらく入手出来そうもなく。。。 というわけで、映画の方を、これも本当に久しぶりに観る事に。

 Kazuo Ishiguro

映画の方は、アカデミー賞3部門受賞に輝いた「眺めのいい部屋」(86年)や、同じく3部門受賞に輝いた「ハワーズ・エンド」(92年)で知られるジェームズ・アイヴォリー監督がメガホンを取り、アンソニー・ホプキンスエマ・トンプソンという二大名優が共演して1993年に製作された。翌94年のアカデミー賞では作品賞をはじめ8部門にノミネートされたが、受賞はならなかった。

      Remains Poster

第二次世界大戦が終わって10年以上が経過した1956年のイギリスアメリカ人の大富豪ルイス(クリストファー・リーヴ)に買い取られた邸宅ダーリントン・ホールに、前オーナーのダーリントン卿(ジェームズ・フォックス)の代から使える執事のスティーヴンス(ホプキンス)は、戦後ナチス協力者の烙印を押され、失意の余生を送ったダーリントン卿の没後、去っていった使用人たちの補充のため、かって女中頭を務めていたミス・ケントン(トンプソン)に会いに、車を走らせる。

 Remains 1

- 時は戻って1930年代半ばのダーリントン・ホール。かっては名執事だった高齢の父ウィリアム(ピーター・ヴォーン)を副執事として雇い入れたばかりのスティーヴンスのもとに、新しい女中頭としてミス・ケントンがやってくる。

 Remains 2

絵に描いたようなイギリス貴族であるダーリントン卿は、第一次世界大戦敗戦後、経済的に困窮していたドイツを救おうと、ドイツ政府イギリス政府フランス政府との関係を修復すべく、奔走していた。

 Remains 3

ナチス・シンパの出入りが頻繁になるなど、邸内の雰囲気も不穏になってくる中、スチーブンスはそうした事には一切立ち入らず、ミスを重ねる父親のカバーをしながら、執事としての責務を果たすべく全力を尽くすのだった。そんな彼と彼を支えるミス・ケントンとの間にも微妙な感情の動きが起こっていた…

 Remains 4

現代の私たち(いや、少なくとも私)の生活とは対極にあるような戦前のイギリス貴族の館を舞台にしたこの作品、こうした映画を作らせば右に出る者がいないアイヴォリー監督(但し、彼はカリフォルニア生まれ・オレゴン育ちの生粋のアメリカ人!)らしさが存分に発揮されている。

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激動の時代を背景にしているとはいえ、特に大きな事件が起きるわけではないのだが、映像とともにこの映画を支えているのは主役二人の素晴らしい演技で、何気ない動きや表情で、感情の微妙な揺れを表現するところは、名優ならではの芸!

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この映画を見たのは二度目だが、最初に観た時と同様、二人の演技に引き込まれるうちに、あっという間に最後まで見終わってしまったという感じ。この二人の演技を引き出したのは、監督の力量とともに、やはり原作の素晴らしさのおかげなのだろう。イギリス貴族の末裔でもなく、5歳まで長崎で育った人が、このような作品を生み出せたというのは、まさに驚き以外の何ものでもない。

 Remains 7

1994年のアカデミー賞では、作品・主演男優・主演女優を含む8部門でノミネートされながら無冠に終わっている。この年は、アカデミー好みの「シンドラーのリスト」(作品賞)や当時社会問題だったエイズ患者を演じたトム・ハンクス(主演男優賞:「フィラデルフィア」)ホリー・ハンターの一世一代の演技(主演女優賞:「ザ・ピアノ」)があったので、やむを得ない面があるものの、個人的にはプロの執事として長年自分の感情を出さない事に徹してきたために、素直に自分の感情を出す事が出来ない男を完璧に演じたホプキンス主演男優賞に値する演技だったと思うし、作品としてはこの映画がこの年の私のベストワン。今でも最も好きな作品の一つである事を、今回再確認しました。他に若き日のヒュー・グラントが出演。  ⇒ 10点満点!!!

日の名残り
Remains of the Day (1993年・イギリス/アメリカ)
監督: James Ivory
キャスト: Anthony Hopkins, Emma Thompson, James Fox, Christopher Reeve, Peter Vaughan, Hugh Grant, Michael Lonsdale, Tim Pigott-Smith, Lena Headey ほか
上映時間: 134分


⇒ 同じカズオ・イシグロ原作の「わたしを離さないで」(10年)感想オススメ!

⇒ ホプキンス出演作「ノア 約束の船」(14年)感想

⇒ トンプソン出演作「ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期」(16年)感想オススメ!
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この世界の片隅に 〜 期待に違わぬ、素晴らしいアニメ作品

2007年に映画化もされた「夕凪の街 桜の国」などで知られる漫画家 こうの史代のコミックを、片渕須直監督がアニメ映画化した作品。2015年の東京国際映画祭でプレミエ上映された後、11月に全国公開され、キネマ旬報の2016年度のベストテンで日本映画第1位に選ばれたほか、今年の日本アカデミー賞では最優秀アニメーション作品賞に輝くなど、高い評価を得た。

     Corner Poster

太平洋戦争末期、1944年の広島。18歳のすず(声: のんのところに縁談が持ち込まれ、彼女はまだ会ったことのない北條周作(声: 細谷佳正のもとに嫁ぐ事になり、北條家があるにやって来る。

 Corner 1

北條家呉鎮守府軍法会議の書記官として働く周作に、広海軍工廠十一空廠の技師である父の円太郎(声: 牛山茂、母サン(声: 新谷真弓の3人暮らし。それまで得意の絵を描いたりしてのんびりと暮らしていたすずは、物資がどんどん不足していく中で、知恵を絞りながら北條家の暮らしを支えていく。

 Corner 2

戦局がますます厳しくなってきたある日、そんな北條家に、結婚して家を出た周作の姉径子(声: 尾身美詞が娘の晴美(声: 稲葉菜月を連れて戻って来る…

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日本で大きな評判となった本作は、太平洋戦争を扱ったこれまでの映画(実写・アニメを問わず)とは随分違う趣き。すず北條家の生活がどちらかといえば淡々と描かれていくのだが、この一見平凡に見える日常が戦時下であり、歴史の流れと無縁ではないところが静かな画面から痛切に伝わってくるところが、この作品の素晴らしいところだと思う。

 Corner 4

戦時下の悲惨な描写はほとんど出てこないのだが、細部の描写を史実に忠実に再現しているために、こうした普通の人々の生活を踏みにじる戦争の悲惨さが逆に浮かび上がってくる。原作はいつもの通り読んだ事がないのだが、日本のアニメ作品の水準の高さを示した素晴らしい作品!  ⇒ 10点満点!

 Corner 5

この世界の片隅に
(2016年・日本)
監督: 片渕須直
声の出演: のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外 ほか
上映時間: 128分

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ハドソン川の奇跡 〜 クリント・イーストウッド監督がまたもや放った傑作!

2009年にニューヨークハドソン川で発生した航空機不時着事故を、クリント・イーストウッド監督トム・ハンクスを起用して映画化した作品。全米では2016年9月に公開され、公開週から2週連続で興行ランキングのトップに立つヒットとなり、イーストウッドの監督作新としては、「アメリカン・スナイパー」(14年)に次ぐ興行成績を記録した。

      Sully Poster

2009年1月15日、シアトルに向けてニューヨーク・ラガーディア空港を飛び立ったUSエアウェイズ1549便は、雁の群れとの衝突により全てのエンジンが停止するという事態に陥り、マンハッタンの西を流れるハドソン川に不時着水する。

 Sully 1

サレンバーガー機長(愛称”サリー”)(ハンクス)スカイルズ服機長(アーロン・エッカート)の沈着冷静な操縦により、奇跡的に乗客に死傷者が出ず、マスコミからも奇跡の生還劇としてサリーらは一躍時の人となる。

 Sully 2

その一方で、国家運輸安全委員会によって設置された事故調査委員会は、飛行機はラガーディア空港に引き返せたはずで、不時着水したのは機長の判断ミスなのではないかとして、サリーらに疑惑の眼差しを向けるのだった…

 Sully 3

2009年にこの事故が発生した時はまだ日本にいたのだが、奇跡の生還劇として大きな話題となった事は良く記憶している。しかしこの美談の裏に、この映画で描かれているような事が起きていた事は、この映画を見るまでは知らなかった…

 Sully 4

この映画を撮るために、実際に撮影用のエアバス機を購入し、救命ボートなども事故の際に使用されたものを使用し、管制塔のオペレーターや救助隊員ら当時実際に関わった人々を極力本人役で出演させるなど、イーストウッドのリアリティへのこだわりぶりによって、事故発生時の緊迫感が映像から見事に伝わってきている。

 Sully 5

本格的に監督業に転向してから、本当に幅広いテーマを題材に扱ってきているイーストウッドだが、彼の作品に一貫して流れているのは人間を描く事にあるように思う。本作でも過去のフラッシュバックを多用しながら、サリーの人物像を浮かび上がらせていく語り口は見事!

 Sully 6

最近は、何かを語ろうとすると、上映時間も2時間を大きく超えるような作品が増えてきている感じだが、本作の上映時間は1時間半ちょっとで、無駄を削ぎ落として、語りたい事をはっきりと浮かび上がらせていく手法は見事という他はない。御年86歳のイーストウッド、これからも旺盛な創作活動を願ってやみません! 他の出演はサリーの妻ローリー役ローラ・リニーら。 ⇒ 10点満点

 Sully 7

ハドソン川の奇跡
Sully (2016年・アメリカ)
監督: Clint Eastwood
キャスト: Tom Hanks, Aaron Eckhart, Laura Linney, Anna Gunn, Autumn Reeser, Ann Cusack, Holt McCallany, Mike O'Malley, Jamey Sheridan, Molly Hagan, Jerry Ferrara, Max Adler ほか
上映時間: 96分


⇒ イーストウッド監督の前作「アメリカン・スナイパー」(14年)感想オススメ!

⇒ ハンクス主演作「ブリッジ・オブ・スパイ」(15年)感想 〜 オススメ!

⇒ エッカート出演作「エンド・オブ・ホワイトハウス」(13年)感想

⇒ リニー出演作「私が愛した大統領」(12年)感想

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ブルックリン: ローナンの素晴らしい演技!

舞台演出を中心に活躍しているアイルランド出身のジョン・クローリー監督の最新作で、1950年代初頭にニューヨーク・ブルックリンに移民した若いアイルランド人女性の姿を描いたコルム・トイビンの同名小説を映画化。2015年のサンダンス映画祭でプレミエ上映され、高い評価を受けた後、全米では同年11月に限定公開され、上映館数が拡大した公開4週目に興行ランキングの9位にランクインしている。今年のアカデミー賞では、作品賞・主演女優賞(シアーシャ・ローナン)・脚色賞の3部門でノミネートされた。日本では7月に公開予定。

      Brooklyn Poster

アイルランドの小さな町で暮らすエイリッシュ(ローナン)は、おとなしく内気な性格で、美人で仕事もバリバリこなす姉ローズ(フィオナ・グラスコット)とは正反対。

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そんな彼女を心配したローズの勧めもあり、ニューヨークに移ることを決意したエイリッシュブルックリンに到着した彼女を待ち受けたのは、それまでの田舎町の静かな暮らしとは全く違う世界だった…

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アイルランドの片田舎で生まれ育った内気な若い女性が、別世界のニューヨークで、一人の女性として成長していく姿を丹念に描いた作品。

 Brooklyn 3

内気だが、芯の強さを内に秘めたヒロイン役を、ローナンが見事に演じていて、その等身大の演技がこの映画に強い説得力と実在感をもたらしている。

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物語は淡々と進められていき、大きな出来事が起こるわけではないのだが、移民の国アメリカの至る所で見られただろう普遍的なストーリーを、ここまで説得力を持たせて描く事に成功したクローリー監督の手腕は見事と言うほかない。派手ではないが、素晴らしい作品!ほかにドーナル・グリーソンジム・ブロードベントエモリー・コーエンらが出演。  ⇒ 10点満点!

 Brooklyn 5

ブルックリン
Brooklyn (2015年・アイルランド/イギリス/カナダ)
監督: John Crowley
キャスト: Saoirse Ronan, Emory Cohen, Domhnall Gleeson, Jim Broadbent, Fiona Glascott, Julie Walters, Brid Brennan, Jessica Pare, Eileen O'Higgins, Jenn Murray, Emily Bett Rickards, Eve Macklin, Nora-Jane Noone, Michael Zegen, Paulino Nunes, James DiGiacomo, Christian de la Cortina, Ellen David, Eva Birthistle ほか
上映時間: 111分


⇒ こちらはエリア・カザン監督の名作「ブルックリン横丁」(46年)感想傑作!!!

⇒ ローナン出演作「グランド・ブダペスト・ホテル」(14年)感想太鼓判!!

⇒ グリーソン出演作「エクス・マキナ」(15年)感想オススメ!

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オデッセイ: リドリー・スコット面目躍如の傑作!

リドリー・スコット監督の最新SFアドベンチャー大作で、今回は火星を舞台にしたサバイバル・ストーリー。主演のマット・デイモンをはじめ、ジェシカ・チャステインクリステン・ウィグら、多彩なキャストが出演している。2015年のトロント国際映画祭でプレミエ上映された後、全米では2015年10月に公開され、4週にわたり興行ランキングのトップに立つ大ヒット作となり、スコット監督の作品としては、2000年の「グラディエーター」を超える、最大のヒット作となった。今年のアカデミー賞では、作品・主演男優賞(デイモン)をはじめ、7部門でノミネートされている。

      Martian Poster

火星での有人探査中に嵐に巻き込まれた、メリッサ・ルイス准将(チャスティン)率いるNASA火星探検チーム。メンバーの一人、マーク・ワトニー飛行士(デイモン)が負傷し、彼が死亡したと思い込んだルイスをはじめ、リック・マルティネス少佐(マイケル・ペーニャ)ベス・ヨハンセン(ケイト・マーラ)ら隊員たちは、彼を残して火星から退避する。

 Martian 1

嵐から奇跡的に生き残り、自分が火星に取り残されてしまった事を悟ったマークは、通信装置が使用不能となってしまった中、空気も水もなく、限られた食料しかない危機的状況の中で、生き延びる事を決意する。

 Martian 2

一方、死んだと思っていたマークが火星で生きている事を知ったNASAでは、長官のテディ・サンダース(ジェフ・ダニエルズ)の下、火星計画の責任者ビンセント・カプーア(キウェテル・イジョフォー)アニー・モントローズ(クリステン・ウィグ)らが、彼の救出作戦を必死に練り始める…

 Martian 3

火星を舞台にした、壮大なサバイバル・ストーリーなのだが、重苦しさや派手な特撮などは控えられていて、何もないところに突然一人残された男が、極限状況の中でも希望を失わずに生き延びていこうとする姿を、むしろユーモアを交えながら描いていて、テーマの割に意外に軽やかな空気が画面から漂ってくるのが、新鮮。

 Martian 4

マークが食料を自給しようと、ベース基地の中で、ジャガイモを栽培しようと奮闘する姿など、この手の映画では今まで見られなかったようなシーンで、これをデイモンが決してヒーローぶりを見せずに等身大で演じているのが素晴らしい。こうした役を演じさせると、本当に天下一品!チャステインイジョフォーウィグら多彩なキャストもそれぞれの持ち味を発揮しているが、ダニエルズは、最近観た「帰ってきた Mr. ダマー バカ Max!」でのおバカぶりが印象に残っているので、あまりの違いについていけなかったが…

 Martian 5

リドリー・スコットの演出も快調で、1970年代のディスコ・ミュージックを全編に流し、軽快さを漂わせながらも、NASAの協力を得て植物の育成シーンなどは科学的に詰めた上で再現されているそうだし、マークが救出されるクライマックス・シーンの緊張感の盛り上げ方も見事で、ここぞというところのスケール大きな描き方もピタリと決まっている(その時鳴り響くのはデイヴィッド・ボウイの「スターマン」!)。

 Martian 6

火星の風景の描き方も壮大で美しく、ここにも監督のこだわりが存分に現れている。リドリー・スコット久々の傑作だと思いました!ちなみに、邦題のオデッセイはこの映画の本質を表していない感じ。原題の The Martian がやはりしっくりときます。  ⇒ 10点満点!

 Martian 7

オデッセイ
The Martian (2015年・アメリカ)
監督: Ridley Scott
キャスト: Matt Damon, Jessica Chastain, Kristen Wiig, Jeff Daniels, Michael Pena, Kate Mara, Sean Bean, Sebastian Stan, Aksel Hennie, Chiwetel Ejiofor, Donald Glover, Mackenzie Davis, Benedict Wong, Eddy Ko, Chen Shu, Naomi Scott, Nick Mohammed ほか
上映時間: 141分


⇒ スコット監督の前作「エクソダス:神と王」(14年)感想

⇒ デイモン出演作「ミケランジェロ・プロジェクト」(14年)感想

⇒ チャステイン出演作「インターステラー」(14年)感想

⇒ ウィグ出演作「LIFE!」(13年)感想太鼓判!!

⇒ ダニエルズ出演作「帰ってきた Mr. ダマー バカ Max!」(14年)感想

⇒ ペーニャ出演作「アントマン」(15年)感想

⇒ マーラ出演作「トランセンデンス」(14年)感想

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