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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い 〜 9・11 で傷ついた少年の心の再生

ジョナサン・サフラン・フォアのベストセラー小説の映画化で、父親を2001年9月の同時多発テロで失くした少年の心の再生の過程を描いている。監督は「リトル・ダンサー」(2000年)「めぐりあう時間たち」(01年)「本を読むひと」(08年)など、珠玉の作品を生み出しているスティーブン・ダルドリー。全米では昨年12月に限定公開され、高い評価を得た。今年のアカデミー賞では、作品賞と助演男優賞(マックス・フォン・シドー)にノミネートされている。

       Loud and Close

同時多発テロで大好きな父親(トム・ハンクス)を亡くした少年オスカー(トーマス・ホーン)。事件から1年経った今でも、彼はその日の事を忘れる事が出来ず、自分の殻に閉じこもっている。そんなある日、父親の部屋で見た事のない鍵を見つける。

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その鍵に父からのメッセージが託されているかもしれないと考えた彼は、母親(サンドラ・ブロック)の心配をよそに、鍵の謎を解くために、ニューヨーク中を歩き回る毎日を始める...

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大好きな父親が亡くなったあの日、自分が取った行動を許す事が出来ず、自分の殻に閉じこもったままのオスカー。心配する母親にも思わずつらく当たってしまう。そんな彼の日常を映画は淡々と追っていき、画面からは彼の心の傷が痛々しい程に伝わって来て、見ているのが辛くなってしまう程。

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     友達のようだった父親と

アスペルガー症候群(発達障害の一種で、他者の表情を読み取る事が出来ない)らしい彼は、対人関係が苦手でそういう彼を周囲の大人たちは心配しながら暖かく見守っている。そんなある日、彼は向かいのアパートに住む祖母(ゾーイ・コールドウェル)のところに間借りを始めた口がきけない老人(シドー)と知り合い、彼と共に鍵の謎解きを行っていく。老人役の名優シドーの演技が絶妙で、ここで物語も活気を帯びてくる。

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ダルドリー監督の演出はここでも繊細で、少年役のホーンを支えるシドー、ハンクス、ブロックの演技も素晴らしい。

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段々と少年が自分の心を解き放って行く過程で、あの日の少年の行動も明らかにされていく。少年が背負っていた心の重荷。それを周囲があくまで暖かく見守って助けて行く中で、少年も遂に、自分自身を取り戻す。そのあたりはやはり感動的だが、最後のまとめ方がややハリウッド的に都合よくまとまってしまった感があるのが残念。映画の余韻がちょっと奪われているように思う。  ⇒ 7/10点

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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
Extremely Loud and Incredibly Close (2011年・アメリカ)
監督: Stephen Daldry
キャスト: Thomas Horn, Tom Hanks, Sandra Bullock, Max von Sydow, Zoe Caldwell, Viola Davis, Madison Arnold, John Goodman, Jeffrey Wright, Hazelle Goodman, Adrian Martinez, Stephen Henderson, Stephanie Kurtzuba ほか
上映時間: 129分


⇒ ブロック主演作「しあわせの隠れ場所」(09年)感想
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テーマ : 映画感想
ジャンル : 映画

ニューヨークのレストラン: 惜しまれながら閉店となった Prime Burger

74年間にわたって営業を続けていた老舗ハンバーガー・ショップ、Prime Burger が、この5月26日をもって閉店となった。

       Prime 1
     Prime 2

かってはサミー・デイヴィス JR、最近ではサラ・ジェシカ・パーカーがひいきにしていた店だが、今回賃貸契約を更新しない事を家主から通知されて、やむなくその歴史を閉じる事となったようだ。

この店の特徴は、オーナーのファミリー主義で、従業員のほとんどが20年以上ここで勤めているという事で、最長の人はなんと59年!

私が訪れたのは、閉店の2日前だったが、ニュースを聞きつけた人で狭い店内は満員!

     Prime 3
     Prime 4
     レトロ感たっぷりの店内!

注文したのは、ベーコン・チーズ・バーガーとミニ・バーガー。シンプルで何の変哲もないバーガーだが、何となく、長年の歴史が染み込んでいるような感じがするハンバーガーでした。

     Bacon Cheese Burger
     Mini Burger with Fries

その後、別な場所で営業を再開する計画である事が報道されました。

     Prime 5
     入口付近には、サラ・ジェシカ・パーカーの写真が

Prime Burger (ホームページはまだ残されているようです)
5 East 51st Street (Btw 5th & Madison Ave.)
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ジャンル : 海外情報

映画: マージン・コール ~ リーマン・ブラザーズの最後の24時間をスリリングに描く!

2007~8年の世界金融危機の中、破綻した米国の大手投資銀行、リーマン・ブラザーズをモデルに、その破たんまでの24時間を描いた作品。自主製作映画として、2011年1月のサンダンス映画祭でプレミエ上映され、高い評価を得た。全米では同年10月に限定公開されている。また、今年のアカデミー賞では脚本賞にノミネートされた。なお、日本では劇場公開はされなかった。

       Margin Call Poster

ウォール街のある大手投資銀行。世界金融危機に揺れる中、同社でも毎日のようにレイオフが行われていた。本日も、リスク管理部門で大量の解雇が発表され、部門責任者のエリック・デール(スタンリー・トゥッチ)もクビを言い渡される。

     Margin Call 1

彼は、「用心しろ」という意味深長な言葉とUSBメモリーを部下の若手社員、ピーター・サリヴァン(ザカリー・クイント)に残して会社を去る。

     Margin Call 2
     ピーター(左)と後輩のセス・ブレッグマン(ベン・バッジリー)

その夜、USBメモリーに残されていたデータを分析したピーターは、会社が保有している多額の金融商品の価値の下落により、大幅な債務超過に陥るリスクが顕在化する寸前の状態であるという結論に達する。

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すぐにトレーディング・デスクのヘッドであるウィル・エマーソン(ポール・ベタニー)やトレーディング・フロアの責任者、サム・ロジャース(ケヴィン・スペイシー)を呼びだして、状況を説明したピーター

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     Margin Call 5

事態の重大さを悟った二人は、すぐさま部門責任者であるジャレッド・コーエン(サイモン・フレーザー)に、緊急役員会の招集を進言する...

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2008年9月のリーマン破綻を題材としていているが、決してドキュメンタリー作品ではなく、重大な危機を目の前にした人々の人間模様を描く事に主眼が置かれている映画。

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何といっても、登場人物の描き分けが素晴らしく、それぞれの説得力ある演技がこの映画に真実味と迫真性をもたらしていて、一級のサスペンス映画としても楽しめる。

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また、スペイシートゥッチの他にも、デミ・ムーア(リスク担当役員サラ・ロバートソン役)ジェレミー・アイアンズ(CEOジョン・チュルド役)など、自主製作映画とは思えない豪華な出演者が、この映画の素晴らしさを支えている。

     Margin Call 8

疑いなく、ウォール街を描いたものの中では最高の作品!  ⇒ 9/10点

マージン・コール
Margin Call (2011年・アメリカ)
監督: J.C.Chandor
キャスト: Zachary Quinto、Kevin Spacey、Paul Bettany、Jeremy Irons、Demi Moore、Stanley Tucci、Penn Badgley、Simon Baker ほか
上映時間: 109分
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テーマ : 映画感想
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ニューヨークのレストラン: Keens Steakhouse

今回東京からの出張者との会食で訪れたのは、1885年創業、マンハッタンでも屈指の老舗ステーキハウス、Keens

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メーシーズ百貨店があるヘラルド・スクエア近くにこの店がオープンしたのは、1885年のこと。現在とは違って、当時はこの辺りが劇場街の中心で、出演中の俳優たちが幕間にこの店に立ち寄って腹ごしらえをしたりしていたらしい。

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       20世紀初頭の姿

ヘラルド・スクエア界隈では最古の建物となった当店、店の名物は世界一といわれる、Churchwarden Pipe と呼ばれる柄の長いパイプのコレクション。17世紀のイギリスでは、壊れやすく持ち運びに向かないこのパイプを行きつけの居酒屋に置いておく(ボトル・キープならぬパイプ・キープ?)事が流行っていたらしく、この店もその伝統にならって、常連客がパイプを置き始めたのが、現在の膨大のコレクションとなっている。その中にはベーブ・ルースやアインシュタインなどのものがある。

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店に入ると、まず目に入るのが、天井に所狭しと吊るされたそのパイプのコレクション。まさに圧倒的!

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店内は3階まで客席があり、いくつかのスペースに分かれているが、どの部屋の天井にもパイプが吊るされている様は壮観!

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マンハッタンのステーキハウスでもトップ10に入る評価を得ているこの店、最初に付き出しとして生野菜やピクルスが出され、アペリティフとこれをつまみながら、メニューを眺める。

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今回注文したのは:

【前菜: Grilled Thick-Cut Smoked Bacon】

     Smoked Bacon

こちらのステーキハウスの前菜の定番、厚切りベーコン。ここのは Peter Luger や Wolfgang’s のものほど分厚くはないが、十分美味しい!

【メイン: Aged Prime Porterhouse】

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やはりアメリカならではのど迫力のポーターハウス・ステーキ。これははずせない! ここのステーキはほとんど味付けはしていないようで、各自、テーブルに用意されている塩と胡椒で、自分の好みの味付けにするというスタイルのようだ。

【メイン: Mouton Chop】

     Mouton Chop

この店の創業以来の名物である珍しい羊肉のグリル。くさみがあまりなく、質の良さが伺われる極めて柔らかい肉で美味!

ステーキの質では Peter Luger Wolfgang’s にはやや劣るかもしれないが、歴史を感じさせる店内で味わうステーキはまた格別でした!

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Keens Steakhouse
72 West 36th Street (Btw 5th & 6th Ave.)
Tel.212-947-3636
営業時間: 11:45AM ~ 10:30PM (土: 5PM~; 日: 5PM ~ 9PM)
アラカルト
Zagat 評価: 25/24/24/$72 (料理/内装/サービス/予算)
Zagat トップ・ステーキ・ハウス 第7位


⇒ Zagat が選ぶニューヨークのステーキ・ハウス ベスト8
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ジャンル : 海外情報

コンサート: クリーヴランド管弦楽団演奏会 ~ 素晴らしいサロメ!

全米5大オーケストラの一角を占めるクリーヴランド管弦楽団。毎年のようにニューヨークを訪れているが、今年も5月にカーネギー・ホールに来演。今回のプログラムの一つ、R・シュトラウスの歌劇「サロメ」の演奏会形式での上演を聴きに行った。

       Cleveland 1

今回の公演の注目は、スウェーデンのドラマティック・ソプラノ、ニーナ・シュテンメがタイトル・ロールを歌う事。ヨカナーンは今シーズンに完結したメトのリング・シリーズで素晴らしいアルベリヒ役を演じたアメリカのバリトン、エリック・オーウェンズ

     Cleveland 2

そのシュテンメは、期待にたがわぬ素晴らしい歌唱だった。サロメ役の歌唱で良く聞かれるような鋭いといった感じの声ではなく、どちらかと言えば柔らかい声だと思うが、低音から高音まで声が均質でムラが無く、かつドラマチックな部分での迫力・スケール感も十分。久々にこの役で聴いた素晴らしい歌唱だった!

     Cleveland 3

威力のある深い声を披露したヨカナーン役のオーウェンズをはじめとする他のキャストも素晴らしく、総じて高水準の歌唱。

     Cleveland 4
     写真の白い衣装がオーウェンズ

指揮は2002年より音楽監督を務めるフランツ・ウェルザー=メスト。どちらかといえばすっきりした音楽作りが身上で、昨年のNY公演で聴いたブルックナーでは、それが物足りなく感じさせる原因だったが、今回の演奏は、世紀末の雰囲気が濃厚に漂う濃厚な音楽で、かつ複雑なR・シュトラウスのスコアをクリアに再現する方向に作用し、それが逆に好ましく感じられ、満足のいく指揮ぶりだった。

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1946年から70年まで、長らくこの楽団の音楽監督を務めたジョージ・セル(1897~1970年)の下、室内楽的な精緻さで世界最高のアンサンブルと称えられたこのオーケストラ。セル以降音楽監督も数度交代しているものの、今だにその特色が感じられるのが興味深い。

      George Szell
      ジョージ・セル

今年の音楽シーズンの最後を飾るのにふさわしい公演で、特にシュテンメの歌唱は長らく記憶に残るであろう素晴らしさでした!

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     Cleveland 7

クリーブランド管弦楽団演奏会
R.Strauss: Salome (1905年、ドレスデン・宮廷劇場にて初演)
(演奏会形式での上演)
指揮: Franz Welser-Most
Salome: Nina Stemme
Jochanaan: Eric Owens
Herod: Rudolf Schasching
Herodias: Jane Henschel
Narraboth: Garrett Sorenson ほか
2012年5月24日、カーネギー・ホール

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