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イリーナ・メジューエワさんのピアノ名曲案内: その7 〜 シューベルト最後のピアノ・ソナタ、第21番

人気ピアニスト、イリーナ・メジューエワさんの著書「ピアノ名曲案内」に沿って、本で紹介された曲を聴いていくシリーズの第7回、7月はシューベルト最晩年の名作、ピアノ・ソナタ第21番

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シューベルトの生涯最後の年、1828年に作曲された3大ピアノ・ソナタの最後を飾る作品で、最後のピアノ作品ともなったこの曲は、演奏時間も40分を越す大曲。

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特に第1楽章が長大で、演奏によっては25分を超えるものもあり、この曲を性格づける重要な楽章。変奏曲的な要素もあるこの楽章は出だしから独特で、メジューエワさんも、どこか時間感覚を超越している雰囲気を感じさせるとコメントしているが、私もそのような印象を強く受ける。ただ、細かく分析していくと、楽章全体が非常に論理的に構成されてもいるそうだ。

 Sonata.gif

メジューエワさんが全曲中の精神的なクライマックスという第2楽章は前楽章の変ロ長調から嬰ハ短調に変わり、一気に別世界に連れて行かれるかのような印象を与える楽章。冬の凍りついた世界の中で歩みを進めているといった感のある中で、私が好きな箇所は中間部でイ長調に移調される箇所で、ここは不意に心の中にさざめきが湧き上がるかのような感じで、いつ聴いても感動させられる。メジューエワさんはこの箇所について、本当に怖いものがさりげなく待っている、とコメントしているのが興味深い。

 Schubert 2


最初の2楽章が内容的にも非常に重い感じなのに対し、スケルツォの第3楽章は人間味を感じさせる明るい楽章で、最後の第4楽章も、3楽章を引き継いて、どちらかといえば、明るく内容的にも軽ろやかさも感じさせる楽章だが、その中でもベートーヴェンの熱情ソナタを思わせるようなドラマチックな展開部があったりと、そこは単純に明るく軽いというわけでもない複雑さが、シューベルトらしい。

何れにしても、シューベルトの最晩年を飾るにふさわしい名曲で、おいそれと軽い気持ちで聴くことの出来ない曲でもある。

さて、今回私が聴き比べてみたのは、メジューエワさんの推薦盤の中からリヒテルの1972年のプラハでのライブ録音盤とルドルフ・ゼルキンが演奏したもの、それにブレンデルの新旧両盤、ホロヴィッツ晩年のライブ録音盤、そして内田光子さんの録音、の計6種。

アルフレート・ブレンデル盤(1971年 録音)
Brendel 1

ブレンデルの旧盤は、バランスが取れた演奏だが、少しこじんまりとまとまり過ぎていて特徴がない感じ。

スヴァトスラフ・リヒテル盤(1972年 録音)
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リヒテルには同じ年にザルツブルクで録音されたスタジオ版もあるが、私が聴いたのは、プラハのライブ録音盤。とにかく、第1楽章が異常に遅いテンポで進められていくのだが、音の美しさと深さがここでも印象的。その中で、繰り返しの前の最後の部分のフォルツァティッシモ(ffz)の三つの音と続くトリルが凄まじい強音で弾かれて、思わずドキッとさせられる。

 Richter 1
 
後半の2楽章は一転して早めのテンポで弾き進められるのだが、軽やかさと強烈なフォルテとのダイナミクスの幅が広大なのもリヒテルならでは。

ルドルフ・ゼルキン盤(1975年 録音)
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ドイツの名ピアニスト、ゼルキンが晩年に演奏したものは、しっかりと踏みしめながら歩を進めていくかのような趣の、楷書体の演奏で、音の一つ一つが明晰に響いている感じ。最終楽章がダイナミックに、カチッと弾かれているので、前半2楽章に比して後半が軽くなり過ぎず、全体のバランスが良くなっている感じ。ニュアンスも豊かで、さすが巨匠の演奏。

アルフレート・ブレンデル盤(1988年 録音)
Brendel 2

ブレンデルの新盤の方も相変わらずバランスのとれた演奏であることには変わりないが、こちらの方が音が深く、ひとまわりスケールも大きくなった感じで、やはりこの曲の素晴らしさを安心して味わう事が出来る点では最右翼の演奏。

ウラディーミル・ホロヴィッツ盤(1989年 録音)
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ホロヴィッツ盤は、シューベルトの森の中を気ままに散策しているというような感じの演奏。音楽が停滞する事がなく、淀みなく流れている様は巨匠晩年の境地を表しているかのよう。逆に、あまり重みは感じられない。

内田光子 盤(1997年 録音)
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内田光子さんの盤は、この人らしく、繊細なニュアンスに彩られた演奏で、特に弱音のデリケートな美しさが印象的。

6枚を聴き比べてみて、正直、どれもそれぞれの個性が光る、甲乙付けがたい素晴らしい演奏で、その時々で一番好きな演奏も違ってくるのでは、という感じだが、今はブレンデルの新盤、それにゼルキンだろうか。
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